第六話・狐嫁女


06 话 <狐女>

有个叫殷天官的人,家里虽然穷,但他长得气宇轩昂,颇有胆量和谋略。

殷天官家附近有一处废弃的住宅,本是富户人家的产业,占地几十亩,亭台楼阁也华美精致。但是,据说这里有鬼,不但晚上没人敢近前,就是大白天也没有人敢走进去,于是满院就长满野草,蓬蒿,更像是鬼狐出没的地方了。

話 (狐 の 嫁 入 り)

 

殷天官という名の人がいた。家は貧しかったが、意気軒昂で非常に剛胆で策謀に長けた人であった。

殷天官の家の近くに一軒の廃屋があったが、もとは富裕な人物の財産で、何十畝もの広さがあり、その亭台や楼閣は華美で精緻に造られていた。だが、ここには幽霊が出るといううわさがあって、夜間に近づく者がいないばかりか、昼のさなかでも中に入ろうとする者はいなかった。そのため屋敷の回りは雑草がいっぱいに生えて、ますます魑魅魍魎が出没しそうな場所になっていた。

 

有一天,殷天官和朋友们一起喝酒,有人开玩笑说:“谁要敢在那里住一夜,大家就办一桌酒席筵请他。”

殷天官一听,跳起来说:“到那里住一夜有什么可怕的!”于是就拿了一张苇席到那宅院去了。朋友们把他送到宅院门口,说:“我们就在门外等着。如果有什么动静,你就赶紧喊我们。”

 

ある日、殷天官が仲間と一緒に酒を飲んでいると、ある者がたわむれに、「誰かあの屋敷で一晩過ごせる者がいたら、みんなで一席設けておごってやるぞ」と言った。殷天官はそれを聞くと躍り上がって、「あそこへ行って一晩過ごすことなど怖くも何ともない」と答えて、むしろを一枚もってその屋敷の中に入って行った。仲間たちは彼を屋敷の門の所まで送って行って、「我々は門の外で待っているから、もし何か動きがあったら、すぐに我々を大声で呼び給え」と言った。

 

殷天官笑着说:“要是碰见鬼狐,我一定捉一个来给你们看。”说完,便挨身进去了。他抬头一看,只见杂草把院子里的路都盖住了,蓬蒿密密麻麻长了半人高。这时正是※夏月初八,幸亏有一弯暗淡的月儿,还勉强看得见门户。殷天官拨开蒿草,一连进了好几道门,才来到后楼。他见月台上又清洁又光滑,就在那里坐下来,观赏那傍山的上弦月。他在月台上坐了好久,根本就没有听到什么响动,暗笑人们的传说都是些假话。于是便铺好苇席,枕了砖块,躺在那里看起牵牛织女星来。

夏月初八…八月八日のことか。「暦書」に、月八日に至って上弦、二十三日に至って下弦とある。

 

殷天官は笑って、「もしもお化けに出会ったら、必ずつかまえてきて君たちに見せてあげるよ」と言ったかと思うとすぐに中に入っていった。彼が顔を上げてあたりを見回すと、中庭にはよもぎが人の背丈の半分ほどに伸びており、あたり一帯にはびこっている雑草ばかりが目に付くのであった。これは夏の八日のことであり、幸運なことにぼんやりと弓張り月が空にかかっていたので、何とか門を見ることは出来た。殷天官はよもぎをかき分けながらいくつかの門をくぐり抜けて、ようやく後楼にたどり着いた。楼台に登ってみると月が清らかに澄んで光が滑らかなので、彼はそこに座って山の傍らの上弦の月を眺めていた。かなりの間そこにすわっていたが、まったく何の物音も聞こえないので、人の噂なんていいかげんなものだとあざ笑っていた。下にむしろを敷いて、煉瓦を枕にしながら横になって、そのまま牽牛と織女の星を見上げていた。

 

一更多,殷天官恍恍惚惚正想入睡,猛听得楼下有人送动,接着传来“噔噔噔”上楼梯的脚步声。于是他连忙装作熟睡的样子,眯着眼睛偷看,只见一个仆人挑着盏荷花灯来到楼上。仆人猛然看见有人躺在那里,不由惊得退了几步,同后边正在上楼的人说:“有个生人躺在这里。

 

十時を回った頃、殷天官が眠たくなってぼうっとしていると、階下から「コツコツコツ」と誰かがのぼってくる足音が聞こえた。そこで、彼は熟睡したふりをしながら、薄目を開けて盗み見をしていると、一人の召使いの女が蓮の形をしたぼんぼりを掲げてやってきた。その女はそこに人が寝ているのを見て、びっくりして何歩か後ずさりをしながら、後から登ってくる人に向かって、「誰かがここに寝ていますよ」と言った。

 

那是谁?”楼下一个苍老的声音问。

不认识。”

一会儿,有个白发老翁走上来,到殷天官跟前弯着腰看看说:“这是殷天官,他已经睡熟了。咱们尽管办咱们的事,殷天官性情豪爽,他不会大惊小怪的。

 

「それは誰なんだ」という老人の声が階下の方から聞こえた。「知りませんわ」と女が答えた。まもなく白髪の老人が登ってきて、殷天官の傍らにやってきて腰をかがめながら顔を見て、「この方は殷天官様だ。ぐっすり眠っていらっしゃるようだ。我々は構わずに自分たちのことを取り運ぼう。この人は性格が豪放磊落なお方だ。大げさに騒ぎ立てることはないだろう」と言った。

 

又过了一会儿,来回走动的人更多了,楼上灯明烛亮照如白昼。殷天官假装翻身打了个喷嚏。老翁听得殷天官醒了,赶忙来到月台,倒身下拜说:“老汉有个女儿,今日择吉成婚,不想打扰了贵人的好梦,万望不要怪罪才好。”

殷天官随即站了起来,挽着老翁的手说:“不知道你们今夜要办喜事,也没有带什么贺礼来,感到很是惭愧。

 

そしてしばらくすると、往き来したり動き回ったりする人がどんどん増えて、楼上には灯りが照り輝いてまるで昼間のようになった。殷天官は寝たふりから身を翻してくしゃみをした。老人はそれを聞いて、殷天官が目を覚ましたと思い、月見の台へ急いでやって来るとひざまずいて、「私に娘がおりまして、今日は吉日で結婚をいたします。はからずもあなた様のよい夢を妨げましたが、どうかそれをおとがめにならないで下さい」と言った。

 

 

殷天官随即站了起来,挽着老翁的手说:“不知道你们今夜要办喜事,也没有带什么贺礼来,感到很是惭愧。”

老翁谦虚地说:“你能够光临我们的喜筵,为我们镇凶压邪,就是我们的福气了;再麻烦您陪陪客人,更是脸上有光。”

殷天官高兴地答应了。殷天官跟着老翁来到楼上,正观看那华丽的陈设,有个四十来岁的老妇人出来向他拜谢。老翁告诉殷天官这是他的老伴,殷天官就向老妇人还了礼。这时,楼下忽然传来鼓乐声,接着有人跑上楼来说了声“来了”。于是老翁赶忙迎了出去,殷天官也站在那里等新郎来。没多大工夫,有两个婢女牵着红纱把新郎领上楼来。

殷天官はすぐに立ち上がり、老人の手を取って、「今夜あなた方におめでたがあることを知らなかったものですから、何のお祝いも持ってこずに恥ずかしい限りです」と言った。老人は遠慮がちに、「あなた様が私どもの宴席においでになって、凶を鎮め邪を抑えて下されば、それが何よりの幸いでございます。お手数ですが客人としてご臨席賜ればこれに勝る光栄はございません」と言った。

殷天官が喜んで承知して、老人と楼上に入ってあたりを見回すと、見事なまでに準備が整っているのであった。そこへ四十歳あまりの老婦人が出て来て彼に感謝の意を表したのだった。老人が自分の妻だと紹介してくれたので、殷天官も礼を返した。するとその時、いきなり階下から太鼓を伴った音楽が聞こえてきたかと思うと、「来ました」という声がした。そこで、老人が走って出迎え、殷天官もそこで待ち受けていると、しばらくして赤い提灯を持った二人の女中に伴われて新郎が入って来た。

 

那新郎十七八岁年纪,丰满俊秀,一表人才。老翁命新郎先叩见殷天官。新郎见殷天官像是来宾,就用※半主礼去参拜他。接着,新郎又参拜了岳父,岳母,大家才一起坐了下来。于是婢女们来来往往,开始上酒菜了,有的端肉,有的※送酒,杯,盘,碗,碟,不是金铸,就是玉琢的,在灯烛映照下闪闪发光。斟过几次酒以后,老翁让婢女把新娘子请出来。婢女应声去请新娘,好半天也没出来;老翁就亲自去唤,打着门帘催她快快出来。

半主礼…主人側から賓客に対する礼の一つ。

送酒…宴席で、主人が盃に酒を注ぎつつ一々指名して客の座席を決めていくこと。送酒安席ともいう。

 

その新郎は、十七、八歳ぐらいだろうか、ふくよかで目鼻立ちの整った顔立ちをしている。老人は、先ず殷天官様に礼を示せ、と新郎に命じた。新郎は殷天官を見て来賓の方であるとわかり、近づいて半主の礼を執ってうやうやしく挨拶をした。それに続いて、新郎と岳父・岳母とが代わる代わるに拝をおこなってから、一同はみな座についた。やがて、女中たちが次々に往き来して、酒や肴を運んできたが、切り肉があり、席順を示す酒があった。さらには、金製品ではないが、杯、大皿、茶碗、小皿などが、まことに玉のように美しく磨き上げられて、灯りの下で光り映ずるのであった。酒が何回りかしたところで、老人が女中を呼んで新婦を連れてくるように命じた。女中はそれに応じて新婦を呼びに行ったが、新婦がなかなか出てこないので、老人が自ら立ち上がって垂れ幕を挙げてすぐに出て来るように催促した。

 

一会儿,婢女和一个老妈子扶着新娘上楼来,但闻金坏,玉佩叮当作响,人过处留下一股兰麝的香味。老翁命女儿向长辈,贵客一一叩拜,女儿照做,然后挨着母亲人了座。殷天官看了新娘一眼,只见她漆黑的发髻上镶满耀眼的珍珠,玛瑙,容貌美丽,世间少有。

少しすると、女中と老婆が新婦を囲んで出て来たが、金環の玉が音を立て、あたりには蘭と麝香がふくいくと薫るのであった。老人が年長者に対して礼をするよう命じると、新婦は賓客に拝礼してから母親のそばに座った。殷天官がちらりと見ると、新婦は漆黒のまげに象眼のかんざしを挿し、まぶしいまでに輝く真珠と瑪瑙の耳輪を付けていた。その美しさはまことに世にも稀なほどであった。

 

这时,有人拿了一个很大的金杯向殷天官劝酒。殷天官看见金杯,心里暗想,如果拿了这个物件让朋友看看,他们一定会相信的。于是他喝完酒,趁人不注意,就把金杯藏在袖袍里,装作吃醉了酒,趴在桌子上睡起来,只听人们乱纷纷地说:“相公吃醉了!相公吃醉了!”

やがて、ある人が極めて大きな金の杯を手にとって殷天官に酒を勧めたところ、殷天官はその金杯を見て、もしもこの金杯を証拠として持って行って友人たちに見せたなら、彼らは必ず信じてくれるだろうと、心の中でひそかに考えた。そこで、彼は酒を飲み干し、人の注意をそらしてからその金杯を袖の中に入れたのだった。彼は酒に酔ったふりをして、テーブルにうつぶして寝ながら、人々が「殷天官様はお酔いになった。お酔いになった」と次々に言う声を聞いていた。

 

时过不久,新郎要告辞了,楼下鼓乐声又响了起来,人们都纷纷下楼去了。

送走新郎,老翁回来清点酒杯时,发现少了一只,到处找也没找到。有人猜疑是殷天官拿了去,老翁急忙摆手制止,不让他们再说,只怕殷天官听见。不多会儿,殷天官听得里里外外都没了声息,才坐了起来,屋内无灯无烛,只是满屋里依然酒香扑鼻。

まもなく、新郎がいとまを告げると、階下から太鼓や音楽の音が聞こえてきて、人々はみな次々に下に降りて行った。新郎が出て行ったので、老人が戻ってきて酒の器の数を調べ始めたところ、一つ足りないことに気がついて、あたりを探したが見つからなかった。これは殷天官が取ったのではないかと疑う者がいたが、老人は慌てて手で制止し、殷天官が耳にすることを恐れて、二度と口にしてはならないと言った。しばらくしてから、殷天官は、内も外も物音が聞こえなくなったので立ち上がったが、屋内は灯りがなく真っ暗で、部屋の中は依然として酒の臭いが鼻を打つばかりであった。

 

等到东方发白,殷天官才不慌不忙从那宅院走了出来,他摸摸袖袍,那只金杯还在里面。殷天官回到家里,朋友们早已等候多时。朋友们怀疑他夜里并不在那里休息,不过是早起去宅院里转了一趟罢了。殷天官也不争辩,只是从袖袍里拿出金杯给他们看。大家看了金杯很是吃惊,就问金杯是怎么来的。他便把夜间的所见所闻,细细说了一遍。朋友们觉得这样的金杯绝不是一个穷书生会有的,这才相信了他说的话。

東方の空が白々となってくるのを待って、殷天官は慌てず急がずそっと邸を出て、袖を探ったところ、金杯は中に収まっていた。殷天官が家に戻ると、友人たちはすでに長い時間そこで待っていたのだった。友人たちは彼が夜中に邸を抜け出して自宅に戻って休んでいるのではないかと疑っていたからであった。だが、彼は朝早く屋敷を出て自宅に戻ってきただけなのである。殷天官は何の弁明もせずに、ただ袖の中から金杯を出して彼らに見せた。友人たちはそれを見てたいへんびっくりして、どうして手に入ったのかと尋ねた。彼が夜中に見たこと聞いたことなどを細々と説明すると、友人たちはこんな立派な金杯を貧乏書生が持っているはずはないとわかって、彼の話を信用したのだった。

 

后来,殷天官考中进士,到肥丘县做县官,有个姓朱的官宦人家请他去吃酒。姓朱的让人去取大酒杯,半天不见取来。一会儿,有个仆人进来,在姓朱的身边悄悄说了些什么,只见姓朱的满面怒容。又过了一会儿,仆人拿来了金杯,姓朱的便用金杯劝殷天官吃酒。殷天官一见这金杯和他从狐狸精那里取来的一模一样,心里十分惊疑,就问姓朱的这金杯是在哪里制作的。姓朱的说:“这样的金杯,我家一共有八个,还是我先祖做京官时,找高手铸制的。这是我们家的传家宝,已经传了好几辈了。本想用金杯招待您,刚才从箱子里去取,不想只剩下七个了。说是被仆人偷去了吧,但是十年来箱子上落的灰尘却一动也没动,实在是难以让人想象啊!”

その後、殷天官は進士に及第して、肥丘県の県知事に就任したが、そこに朱という役人の名家があって、彼を招いて酒宴を開いた。朱氏が大きな酒杯を持ってこいと人に命じたのだが、なかなか持ってこない。少し経つと、使用人がやって来て、朱と額を付き合わせて何かひそひそ話していたが、朱の満面には怒りがあらわれていた。また、しばらくすると、使用人が金杯を持ってきたので、朱は殷天官に金杯で酒を飲むことを勧めた。殷天官はその金杯を一目見て、狐の化け物の所から持ってきたものと瓜二つなので、心の中ではたいへんびっくりしたが、この金杯はどこで作られたものかと朱氏に尋ねた。朱氏は、「このような金杯は、わが家に八つあって、先祖が都で役人をしていた時に、上手な職人を探して作らせたものです。これはわが家に伝わる家宝で、すでに何代にもわたって伝えられてきたものです。あなた様においでいただいたので、金杯を箱から取り出そうと思ったのですが、不思議なことに七つしかなかったのです。家の者が盗んだのでしょうが、十年も経って箱の上のほこりが少しも移動していないので、ほんとうは何とも想像がつかないのです」と答えた。

 

殷天官听了,笑着说:“想必是金杯长了翅膀飞走了吧。不过既然是传家之宝,自然是不能丢的。我也有一个金杯,和你家的杯子样子差不多,就赠送给你吧。

 

殷天官は、それを聞いて笑いながら、「金杯は羽が生えて飛んでいったんでしょう。でも、家宝であるからには、当然ながらほうっておくわけにはいきません。私も一つ金杯を持っていて、あなたのものとそっくりですので、それを差し上げましょうか」と言った。

 

殷天官吃罢酒席回来,就派人把那只金杯给姓朱的送去了。姓朱的一看,惊奇得不得了,便亲自到县衙向殷天官道谢,并问他金杯的来历。殷天官就把狐嫁女的事情给他讲了一遍。这才知道,狐狸精虽然可以把千里以外的东西偷来,却不敢据为己有呀。

殷天官は、食べ終わって酒席から戻ると、人をやってその金杯を朱氏の所に届けさせた。朱氏はそれを一目見て、驚きを禁じ得なかったので、すぐさま自分から県の役所に赴いて殷天官にお礼を述べてから、その金杯の由来を尋ねた。殷天官は狐の嫁入りの事情を語り終わると、そこで初めて、狐の化け物は千里も離れた遠くのものでも盗んでくることができるが、それをいつまでも自分の所に留めておくことはないのだと思い至ったのである。

 

 

 

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