『白旗の少女』

 沖縄戦は、日本における唯一の地上戦であり、太平洋戦争でも最大規模の悲惨な戦闘であった。この戦いでは、 日本側だけでも19万人近い人々の命が奪われたが、 その多くは、それまで沖縄の島々で平和に暮らしていた一般住民であった。 ある者は砲弾で吹き飛ばされ、ある者は集団で自決し、ある者は飢えと病気で命を失った。さらに悲惨なことは、 住民の命を守ってくれるはずの日本軍の手によって、 死に追いやられた人々も少なくはなかった。
  本書は、地獄のような戦闘の中を、たった一人でさまよいながら、生きぬいた7歳の少女のドキュメントである。
  「白旗の少女」は、 比嘉富子さんその人であるが、幼いときから父親に厳しくそだてられるなかで多くのことを学び、 極限状態におけるサバイバルの能力を、 優しさとともに身につけていったのであろう。 そのことは、食べものや水を求める時のようす、戦場を逃げる時のようすなど、随所に描かれている。
  比嘉さんは、 戦場をさまよう中で、ある老夫婦と劇的な出会いをしたが、 「この世でいちばん大切なものは、人の命なんだよ」と教えられ、 おじいさんのフンドシで作った白旗を掲げてアメリカ軍に保護を求め生きのびた。
  文章は、 感情を抑えた客観的な描写であるが、読む人の心を強く打つものがある。 それは、本書を書いた比嘉さんに、真の意味のヒューマニズムの精神が脈々と流れているからであろう。

 (小学校高学年向き)

  (日本児童文学学会・会員 恩田 満 「YMCA 出版物」より転載)

 

 


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